東司企発第1 6 号
                       平成2 2 年6 月7 日
会 員 各 位
                       東京司法書士会
                       会 長 ****

 平成21年度東京登記実務協議会結果について(お知らせ)

 時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 会員各位におかれましては、各種研修会の履修により研鑽を積まれていることと存じます。
 さて、本会では、東京登記実務協議会対策委員会において、従来から登記実務の不統一事例問題等について、東京法務局と定期的に協議を続けて来ておりますが、今般、東京法務局の回答を得ましたので、平成21年度の東京登記実務協議会の協議事項の結果についてお知らせいたします。
 登記実務上の疑問点がある場合にご参照下さい。
 なお、内容につきましては、東京法務局管内の取扱いとして東京法務局の承認をいただいておりますが、今後の法改正等でその取扱いが変更になる可能性もあることをご承知置き下さい。

◎ 合併における貸借対照表の公告について
<事例>
特例有限会社A(決算期 4月末)  特例有限会社B(決算期 8月末)
1. Aの商号を株式会社に変更する決議を、今年6月開催の定時株主総会において承認され、7月1日に変更登記を申請する。
2. 10月に株式会社化したA(臨時総会での承認)と、特例有限会社B(定時総会での承認)が、それぞれが吸収合併(存続会社A)の承認決議を得て、合併手続きをする。
[Q.その1]
Aを存続会社、Bを消滅会社とする吸収合併は認められないので、上記1と2の手続きを経て合併をする場合において、Aの合併公告に記載すべき最終の貸借対照表に関する事項とは、特例有限会社として6月の定時総会で承認の決議を得た貸借対照表と考えて、株式会社としてその貸借対照表を公告すべきものと考えますが、いかがでしょうか?

→ 貴見のとおり。

[Q.その2]
次に、仮に特例有限会社Aが、公告義務がないのにも拘わらず任意に最終の貸借対照表を公告していた場合、その特例有限会社として公告した最終の貸借対照表を、合併公告に記載することができるのかの問題については、特例有限会社Aと株式会社に移行したAが同一であるとは必ずしも証明できないので、別途、株式会社として前述[Q.その1]のとおり貸借対照表を公告すべきと考えますが、いかがでしょうか?

→ 貴見のとおり。

◎ 外国会社の変更登記申請に添付する宣誓供述書作成者について
Q.外国会社の変更登記申請書に添付する変更の事実を証する書面(商業登記法第130条の書面)は、変更内容を宣誓供述書に記載し、それに認証を受けたもので構わないとされ、その宣誓供述書の作成者が、本国のCEO、取締役、秘書役と日本における代表者である時は、そのまま受理し、それ以外の者(従業員や代理人)の場合は、権限があることを示す本国法のコピーを添付させるという実務の運用(平成18年4月5日民商873号民行部長通達)になっているはずなのに、法務局によっては「日本における代表者が宣誓供述書を作成する場合、宣誓供述書作成について権限があることを強く記載した書面でないといけない」とか、「代表者に代わり宣誓供述書を作成し、登記申請する権限がある」という一文を入れるように指示されたケースもあります。
平成18年4月5日民商873号民行部長通達は、旧商業登記法第104条に関する通達ではあるが、外国会社の変更の登記においても、この通達によるべきと考えますが、いかがでしょうか?

→ 貴見のとおり。
(平成18年4月5日付け民商第873号商事課長通知解説参照)

◎ 氏名の変更による登記名義人氏名変更登記の添付書類について
Q.住所の移転を伴わない氏名の変更による登記名義人氏名変更登記の添付書類としての登記原因証明情報については、次の3つの見解があり、取扱いが統一されておりません。
1. 氏名変更が記載されている戸籍謄本のみ
2.氏名変更が記載されている戸籍謄本及び住民票(本籍の表示有り)の両方
3. 氏名変更が記載されている戸籍謄本及び住民票(本籍の表示無し)の両方

→ 2によることが相当と考えます。

◎ 外国在住の日本人の印鑑証明書と委任状について
Q.外国在住の日本人が売主となる所有権移転登記申請書に添付する印鑑証明書に代わる署名(および拇印)証明書やサイン証明書等と、代理権限証書としての委任状は必ずしも合綴していなくても構わないとするのが、これまでの登記実務の取り扱いであったのに、最近、合綴していないものは、委任状の署名(および拇印)と署名(および拇印)証明書やサイン証明書等の署名(および拇印)の同一性の認定ができないので、添付書類として認めないとする登記所があります。
実務の取り扱いが変更されたのでしょうか?

→ 合てつされていないことをもって却下することはできないと考えますが、合てつすることが原則なので、協力をお願いしたい。

◎ 相続証明書として添付する法定相続人の現在戸籍謄本の発行日について
Q.相続を証する書面としての戸籍謄本等については、その有効期限につき何ら制限がないとする先例(昭和35年2月5日民事甲286局長通達)から、法定相続人の現在の戸籍謄本についても有効期限の制限がないことになり、発行年月日についても何ら制限がないものと考えますが、発行年月日は、被相続人の死亡した日以降の日付のものでなければならないとする見解があり、不統一事例となっております。被相続人の死亡した日より前の日付の発行日のものは添付できないのでしょうか?

→ 相続人については、登記申請時に生存していることを確認する必要性があることから、被相続人の死亡日以後の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)の添付をお願いしたい。

◎ 登記原因証明情報としての相続関係説明図の訂正について
Q.オンラインで相続登記を申請する場合において、添付書類としてのPDF化した相続関係
説明図に間違いがあった場合は、訂正ができないからという理由で、取下げを求める登記所がありますが、紙での申請の場合は、相続関係説明図の差替えや、訂正での対応をしており、オンラインでの申請の場合でも、このような扱いはできないのでしょうか?

→ 相続関係説明図は戸籍謄本等に基づいて、単に事実関係を記録した情報に過ぎないため、適宜、補正の対象として差し支えないと考えます。

◎ 相続登記における登記原因の記載について
Q1.相続による所有権移転登記申請につき、被相続人甲の除籍謄本中、甲の死亡年月日記載事項が「推定平成 年 月 日死亡」とあった場合、登記原因は、「推定平成年 月 日相続」と記載しなければならないのでしょうか?

→ 貴見のとおり。

Q2.オンラインで上記事例の相続登記を申請する場合に、登記申請情報「原因」欄に、単に、「平成 年 月 日相続」とした場合は、補正と取扱われるのでしょうか?

→ 除籍謄本の死亡原因に「推定」の記載があれば、そのとおりに記載すべきものと考えます。

◎ 権利混同後に相続が発生した場合の抹消登記の申請人について
<時系列>
1.抵当権者甲が抵当物件の所有権を取得(所有権移転登記済み)
2.権利混同が成立
3.抵当権者兼所有者(権利者兼義務者)である甲が死亡
4.甲の法定相続人乙、丙、丁による遺産分割協議で、乙が対象物件を相続
(相続登記済み)
Q.上記時系列において、権利混同を原因として、抵当権の抹消登記をする場合の登記権利者は乙となるが、登記義務者・申請人は誰になるのでしょうか?
a説)登記義務者は、亡甲となり、右相続人として、乙、丙、丁を記載し、乙、丙、丁が申請人となる。 (登記研究 119号)
b説)登記義務者は、亡甲となり、右相続人として、乙、丙、丁を記載するが、申請人は、乙のみである。 (登記研究 252号)
c説)登記義務者は、亡甲となり、右相続人として、乙、丙、丁を記載するが、申請人は、丙、丁である。 (登記研究 533号)

→ b説が相当と考えます。

◎ 信託条項変更契約の当事者について
Q.下記 イ、ロ、ハ、は、旧信託法に基づき別々に設定された、既登記の信託目録中のその他の信託条項の記載事例です。
イ、本信託は、受益者の書面による承認を得た上で委託者及び受託者が書面による合意をすることによってのみ、修正、変更又は補足することができものとする。但し、本信託の条項は、委託者の義務を加重・追加したり、その権利を剥奪・制限したりしない限り、受託者及び受益者の合意により変更又は修正することができる。
ロ、(1)受益権の譲受または承継により受益権を取得した者は、本信託契約上の委託者及び受益者としての権利及び義務を承継し、かつ本信託契約上の委託者の地位および受益者の地位をも承継する。
(2)本契約の条項は受託者及び受益者の合意により変更または修正することができる。
ハ、本変更契約の条項は、委託者の義務を加重・追加したり、その権利を剥奪・制限したりしない限り、受託者及び受益者の合意により変更または修正することができる。

上記イ、ロ、ハ、いずれの場合も、信託条項変更契約の当事者は、受託者、受益者であり、当初委託者は、当事者とならないと考えますが、いかがでしょうか?

→ 貴見のとおり。

◎ 根抵当権の債権の範囲・債務者の変更と利益相反について
<事例>
根抵当権者 甲銀行
債務者兼設定者 乙株式会社(代表取締役A)
債権の範囲 銀行取引、手形債権 小切手債権
Q.上記事例において、代表取締役が同じ丙株式会社(取締役会非設置会社)が、乙株式会社(取締役会非設置会社)の債務を重畳的に引受け、併せて、次のように債務者と債権の範囲を変更した場合、会社法第356条に該当するでしょうか?
変更後の事項
債務者 乙株式会社
丙株式会社
債権の範囲 債務者乙株式会社につき
銀行取引 手形債権 小切手債権
債務者丙株式会社につき
平成21年4月30日債務引受(旧債務者乙株式会社)にかかる債権
思うに、丙株式会社は、あくまでも乙株式会社の債務を重畳的に引受けたに過ぎず、また、丙株式会社と甲銀行との間の債権はなんら担保されることはないので、この債務者・債権の範囲の変更に関する契約によって、乙株式会社が不利益を被ることにならないので、会社法第356条の利益相反行為にはあたらないと考えます。
なお、乙株式会社と丙株式会社との間の重畳的債務引受契約そのものは、会社法第356条にあたるので、丙株式会社の株主総会の承認を要しますが、これは、根抵当権変更登記の添付書類とはならないと考えます。

→ 貴見のとおり。

◎ 会社法第356条の利益相反について
取締役会非設置会社が、利益相反行為の承認を株主総会で得た場合の株主総会議事録の捺印は、議長及び出席取締役のみと考えますが、取締役1名の場合は、その取締役のみの捺印で足りるでしょうか?

→ 貴見のとおり。

◎ 換地処分後の保留地の所有権移転登記について
<時系列>
平成15年4月1日 土地区画整理組合とA株式会社の間で、保留地の売買契約を締結した。
平成17年2月7日 A株式会社とB株式会社の間で、A株式会社の有する保留地請求権の売買契約を締結した。
土地区画整理組合の承認を得ていた。
平成21年2月1日 土地区画整理組合法による換地処分の公告がなされた。
平成21年6月1日 土地区画整理組合名義の所有権保存登記がなされた。
平成21年6月9日 土地区画整理組合より、B株式会社に対して、保留地の保存登記が完了した旨の通知がなされた。
Q1.所有権移転登記の当事者について
登記義務者を土地区画整理組合とし、登記権利者をB株式会社とする所有権移転登記ができると考えますが、いかがでしょうか?

→ 貴見のとおり。

Q2.登記原因証明情報の作成名義人について
前述Q1.の登記が認められたとした場合、所有権移転登記申請書に添付すべき報告形式の登記原因証明情報の作成名義人は、登記義務者である土地区画整理組合のみと、保留地請求権譲渡人であるA株式会社と考えますが、いかがでしょうか?

→ 作成名義人は、土地区画整理組合のみと考えます。

また、A株式会社は、本来的な登記義務者ではないから、A株式会社の代表者の資格を証する書面や印鑑証明書の添付は不要と考えますが、いかがでしょうか?

→ 資格を証する書面等は不要と考えます。

◎ 代理人を1名とする共有不動産の処分について
<事例>
法定相続人A、B、C、の法定相続分での相続登記をした後に、遺産分割調停において、次のような内容の調停が成立した。
1. 該当不動産を売却し、その売却代金から売却に必要な費用を差し引いた金員を法定相続分の割合で配分すること。
2. 当事者全員は、該当不動産の売却担当者をAと定め、売却手続きに必要な一切の権限を授与する。
Q1.この遺産分割調停に基づいて、第三者への売買に基づく所有権移転登記をする場合は、登記義務者としてAが作成した報告形式の登記原因証明情報と、Aの委任状及び印鑑証明書を添付すれば足り、B及びCも連署した報告形式の登記原因証明情報や、B及びCの委任状及び印鑑証明書は不要と考えますが、いかがでしょうか?

→ A、B及びCが登記義務者として申請するものと考えます。

Q2.法定相続人A、B、Cの法定相続分での相続登記が未了の場合は、保存行為としてAが法定相続登記を申請し、Aのみに登記識別情報が通知されることになっても、第三者への所有権移転登記申請には、B及びCの本人確認情報は不要と考えますが、いかがでしょうか?

→ A、B及びCが登記義務者となるので、B及びCの本人確認は必要と考えます。