登記名義人の住所変更登記に関して書いてみたいと思います。
今回気になったことは「地番の変更を伴わない行政区画又はその名称の変更があった場合に登記名義人の住所変更登記は必要か?」と言うことに関してです。
結論から言ってしまうと不要なわけですが、その根拠が問題でして。

このことをネットで検索すると、司法書士が書いているブログや解説サイトがいくつかヒットしてきます。
で、内容を見てみると、「不動産登記規則第92条」を根拠に「みなし規定があるから登記は不要」と書いている方がいらっしゃいます。
しかし、これは間違いです。

確かに不動産登記規則第92条にみなし規定がありますが、この不動産登記規則第92条は「表示に関する登記」の「通則」にある条文です。
つまり、権利の登記には及ばない条文です。

ちなみに、旧不動産登記法の第59条には「行政区画又ハ其名称ノ変更アリタルトキハ登記簿ニ記載シタル行政区画又ハ其名称ハ当然之ヲ変更シタルモノト看過ス」と言うみなし規定がありました。
この旧法の条文は「登記手続」の「通則」に定められていたので、当然に権利の登記にも及ぶ条文でした。

今でも「みなし規定があるから登記は不要」としている方は、この旧法のみなし規定と同様だと思っているか、不動産登記法改正後に司法書士になっているとすると、旧法の知識しかない方からそう聞いているのではないでしょうか?

次の先例があります。

行政区画の変更に伴う登記名義人等の住所の変更に係る登記事務の取扱い
1 登記名義人の住所の変更の登記について
(1) 登記名義人が登記記録に記録された住所から他の住所に移転した後、当該移転後の住所について区制施行などの地番変更を伴わない行政区画の変更が行われた場合の登記名義人の住所の変更の登記を一の申請でするときは、その登記原因を「平成○○年○○月○○日住所移転、平成○○年○○月○○日区制施行」とすることで差し支えない。
(2) (1)の場合、当該登記の申請の添付情報として、当該行政区画の変更に係る市区町村長等の証明書(登録免許税法施行規則第1条第1項第2号)が提供されたときは、登録免許税法第5条第5号の規定により登録免許税は非課税となる。
2 共同根抵当権の追加設定をする場合の前の登記の債務者の住所の変更の登記について
 共同根抵当権の追加設定をする場合には、民法第398条の16の規定により「同一の債権の担保として」根抵当権を設定する必要があるため、追加設定する根抵当権の「極度額」、「被担保債権の範囲」及び「債務者」は、前の登記と同一の内容であることを要するが、前の登記の債務者の住所について、区制施行などの地番変更を伴わない行政区画の変更が行われた場合は、前の登記の債務者の変更の登記をすることなく、追加設定の登記をすることができる。
(平22.11.1、民二第2,759号民事局民事第二課長通知)

1の(1)の部分は、「平成○○年○○月○○日住所移転」のみで足りるとする意見もあり、いささか疑義がありますので照会します。への回答です。
これに関する解説が登記情報593号(2011年4月号)の87ページに掲載されています。
そこに、昭和50年5月23日付け民三第2692号民事局第三課長回答を絡めて、以下のように書かれています。

 昭和50年回答において、―蚕螳榲勝↓行政区画の変更(区制施行等)の場合の登記原因は、―蚕螳榲召里澆悩垢兄戮┐覆い海箸箸気譴討り、その趣旨を考えると、旧不動産登記法においては、「みなし規定」があり、その解釈として、法律の規定により当然に登記名義人等の住所は変更されたとみなされているのだから、既に変更されたものを、あえて登記名義人等からの申請により変更する必要はないことにあると解される。
 したがって、このときの登記原因は、「行政区画の変更」と記録する必要はないと考えられている。
 なお、旧不動産登記法下では、登記記録上の住所について行政区画の変更があった場合であっても、登記名義人等から申請があったときは、その変更の登記をしていたが、これは、登記記録に変更後の住所を公示したいという登記名義人のニーズに応じた便宜的な取扱いだったのではないかと考えられる。
 そこで、旧不動産登記法と新不動産登記法との取扱いを整理すると、旧不動産登記法下にあっては、権利に関する登記についても「みなし規定」の適用があり、登記記録に記録された登記名義人等の住所は、行政区画の変更に伴い当然に変更されたものとみなされるため、申請人からの申請に基づき行政区画の変更に伴う登記名義人等の住所の変更をする実益はなく、これを登記原因とする必要はない。
 他方で、新不動産登記法下では、権利に関する登記については、「みなし規定」の適用はなく、行政区画の変更があったとしても、登記記録上の住所は当然には変更されないから、登記名義人等からの申請に基づき行政区画の変更に伴う登記名義人等の住所の変更をする実益があり、そのため、登記原因として、行政区画の変更の旨も記録する必要があると整理することができる。
 以上から、新不動産登記法下においては、―蚕螳榲勝↓行政区画の変更の原因がある場合には、その両方を登記原因として併記することとなるものと考える。
 この場合において、昭和50年回答は、権利に関する登記に「みなし規定」の適用がなくなった不動産登記法の改正によりその効力を失ったと考えるべきと思われる。


しかし現在でも、地番の変更を伴わない行政区画又はその名称の変更があった場合には登記名義人の住所変更登記は「しなくてもよい」ことになっています。
まぁ、だからこそ前述のような「みなし規定があるからですっ!」と考えている方もいるわけでして。

これに関しても登記情報593号に、以下のように解説がされています。

 行政区画の変更は、住居表示の実施、地番変更を伴う町名変更等と異なり、地方自治法第259条等の規定により官報等に告示されるものであるとともに、地方自治体のホームページ等を閲覧することにより、容易に確認することができるものである。
 そのため、およそ行政区画の変更は、すべて公知の事実であると考えることができる
 したがって、所有権の移転、抵当権の設定その他の登記の申請の際に、登記義務者の住所が、行政区画の変更により変更されているものの、その変更の登記がされていない場合であっても、行政区画の変更がすべて公知の事実であることからすれば、不動産登記法第25条第7号に規定する「登記義務者(略)の住所が登記記録と合致しないとき」には該当しないと考えるべきと思われる
 なお、自己の管轄登記所以外の地域に係る行政区画の変更の事実を登記官が確認する手段として、実務上の取扱いとしては、例えば、申請人からの聴取に加え、その住所を管轄する登記所の登記官に対して、電話等により照会して確認することも考えられる。
 また、住所の移転はなく、行政区画の変更のみがあった場合において、「行政区画の変更」を登記原因とする登記名義人の住所の変更の登記申請があったときは、当然これを認めて差し支えないものと考える。


ということで、地番の変更を伴わない行政区画又はその名称の変更があった場合に登記名義人の住所変更登記をしなくてもよいと言う根拠は「公知の事実だから」です。